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Special Cover Talk

005 Candle JUNE with Kazunori Kumagai



Candle JUNE(以下、C):日本にはどうして帰ってくることになったの?

Kazunori Kumagai(以下、K):最初から5年と決めていたからというのもありますけど、NYにいて、そこにいるのが当たり前になっている人達を見て、何かが違うなって思ったのもあります。みんな自分の国を捨てているフリをするというか・・・。日本の悪口を言ったりしていて。

C:またひとつ、NYというものに縛られている気がしたんだね。

K:あとは2001年にテロが起きたこと。そして、そこでもひとつ恋愛の一区切りがあって・・・。

C:実は全部、区切りは恋愛なんじゃない(笑)。

K:いや、恋愛はでかいですよ。

C:でかいよね。もちろん家族や友達もあるけど、本当の人間の内面的な部分でキャッチボールができて自分を感じられる場所って恋愛しかないんだと思う。

K:NYには家族もいないし、心を許せる知り合いもあまりいなかったから、日本で恋愛する時よりも濃密なんですよね。その頃、そんな恋愛の区切りとテロが同時多発的に起こって、自分のなかでリンクしました。屋上で煙が上がってビルが崩れていくところをリアルタイムで見ていたのに、逃げ場もないし、実感もない。そのうちに、何が起こるか分からない状況が当たり前になってしまう。スーパーで「血が足りない」という張り紙が貼ってあるのが日常。何千人と人が死んでいることを脳がシャットアウトして実感できないことに罪の意識を持つ人も多くなり、そして、何が悲しいのか分からないという人もいれば、そういう人を猛烈に怒る人もいます。怒ることの善悪も分からないし、悲しめない自分も悲しい・・・。そんな感じで麻痺していくんですよね。テロを一般的なこととして語れるようになってきたのは、ここ最近になってからなんですよ。

C:テロの現場に足を運ぶ人も、被害に遭った人より観光客や自分も含めて被害に遭っていない人の方が多い。未だにあの辺一帯に近づきたくない人もたくさんいる。変わらぬ日常を送っていた場所に、ある日突然、瞬間的な戦争が訪れるわけでしょ? 理由も結末もはっきりしない状態で、未だにそれをシャットアウトしている人だってたくさんいると思う。

K:ビルが崩れていくなかで、子供が遊んでいたり、屋上で日焼けをしている人がいたりしました。本当に何の前触れもなかったです。そして、ブルックリンからマンハッタンへ行けない日が何日も続きました。毎日、みんなが躁鬱のような状況でした。死ぬんじゃないかっていう意識では生きていけないから、別のマインドになったり・・・。事件を目撃できたことは、今となっては良かったと思います。テレビが映らなくて、知らない人の家に行ってテレビを一緒に見たりとかいう人と人とが繋がり合うポジティブなこともありました。音楽やエンターテイメントは、9.11ですごく変わったんじゃないかなと思います。クラブもバーもなくなり、音楽が一瞬消えたと思います。自分は何のためにタップをやって、何のためにエンターテインメントをしてるのかをすごく考えました。

C:いつの日か、一緒にNYで9.11ができたらいいね。長い年月がかかるかもしれないけど。この間の9.11にNYへ行ったけど、思いのほか変わっていなかった。駅ができたりと、物理的なところは変わってはいるけれど。でも、小競り合いでなく道具としての言葉をきちんと使って主張し合うという人達がダイレクトに見れたのは良かった。どちらの意見が正しいとかより、テロや戦争ではなく、もっと明確に戦う方法を示すべきだと思ったから。

K:事件が起きた直後にタップの先生に電話をしたら、一瞬「私達が戦わなくちゃ」という話になりました。アメリカ人って一瞬「われわれの国が」みたいな感じになるじゃないですか? その時に本能を垣間見ました。今まで決してそういう人でなかった人が、瞬間的にそういうふうになってしまう。自分の家族が殺されたら殺した人を殺してやろうというように思うような感じかもしれないです。

C:やられたらやりかえす的に、気がついたら瞬間的な怒りが先導していってしまうことだってある。だから、ダメなものはダメって言わないと。今の若い人がダサいからそういう活動には参加しないって言うのもひとつの選択肢かもしれないけど、そういうことに対する危機感を感じる。もちろんあれから何も起こっていないのはいいことだけれど、事件のことを忘れてしまうだけではいけないと思う。きちんとそれを修正していかないと問題の解決にはならないから。貴重な体験をどう自分のなかで吸収して、どう表現して、そこから何を学んで、これからどうあるべきなのか。それを示すことが唯一、亡くなった人に返せるものだと思う。







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